<言葉には大きな力がある>
Ⅰ【 言葉には大きな力がある 】
私の朝のランニングコースの途中にある小学校の正門の脇に、
「あいさつは 心のまどを ひらくかぎ」
の標語が書かれた看板が立てかけてあり、平日2~3日はその道を軽く走っている。
確かに、大人になるにつれて挨拶は特定の人やその範囲が狭くなっていると思う。
あいさつの言葉の中には心のまどをひらくという様に、挨拶をうけた人も気持ちが良いし、挨拶した人に対し、好感を抱くとともに豊かな想像力を養う、伝え合う力や一歩前へ踏み出す力へ発展する様に思える。
その様な日々が続けられたら・・・と思ってその場を離れて行き、現実の世界に戻ってしまう。
テレビ・新聞等々では、言葉によるいじめや人を騙したり、暴力のニュースが後を絶たない令和の時代を生きています。
そこで、もう一度偉人が発した心に響くポジティブな名言を振り返ってみたい気持ちに「あいさつは心のまどをひらくかぎ」を見て感じました。
みなさまもご承知のことと思いますが、改めて詩人の「大岡 信」さんの言葉をご紹介します。
大岡さんは、朝日新聞の朝刊(1979年1月25日~2007年3月31日)の第一面に28年間、コラム「折々のことば」を連載して来た方です。(2017(H29)年4月5日 86歳没 静岡県三島市)
大岡さんは「言葉の力」についても昭和の黄金の言葉を残しています。私は今の時代だからこそ、再度論理的に思考すべきものと思っている次第です。
《 言 葉 の 力 》
人はよく美しい言葉、正しい言葉について語る。
しかし、私たちが用いる言葉のどれを取ってみても、単独にそれだけで美しいと決まっている言葉、正しいと決まっている言葉はない。
ある人があるとき発した言葉がどんなに美しかったとしても、別の人がそれを用いたとき同じように美しいとは限らない。
それは言葉というものの本質が、口先だけのもの、語彙だけのものではなくて、それを発している人間全体の世界をいやおうなしに背負ってしまうところにあるからである。
人間全体が、ささやかな言葉の一つ一つに反映してしまうからである。
京都の嵯峨に住む染織家 志村ふくみさんの仕事場で話しており、志村さんがなんとも美しい桜色に染まった糸で織った着物を見せてくれた。そのピンクは淡いようでいて、しかも燃えるような強さを内に秘め、はなやかでしかも深く落ち着いている色だった。その美しさは目に心を吸い込むように感じられた。
「この色は何から取り出したんですか?」
「桜からです。」
と志村さんは答えた。素人の気安さで、私はすぐに桜の花びらを煮詰めて色を取り出したものだろうと思った。実際はこれは桜の皮から取り出した色なのだった。あの黒っぽいごつごつした桜の皮からこの美しいピンク色が取れるのだという。
志村さんは続いてこう教えてくれた。
この桜色は、一年中どの季節でも取れるわけではない。桜の花が咲く直前のころ、山桜の皮をもらってきて染めると、こんな上気(じょうき)したような、えもいわれぬ(注.言い表すことも出来ないほど、すぐれていること=現代のエモいに変化したと考えられている。)色が取り出せるのだ、と。
私はその話を聞いて、体が一瞬ゆらぐような不思議な感じにおそわれた。春先、間もなく花となって咲き出てこようとしている桜の木が、花びらだけでなく、木全体で懸命になって最上のピンクの色になろうとしている姿が、私の脳裡にゆらめいたからである。
花びらのピンクは幹のピンクであり、樹皮のピンクであり、樹液のピンクであった。桜は全身で春のピンクに色づいていて、花びらはいわばそれらのピンクが、ほんと先端だけ姿を出したものにすぎなかった。
考えてみればこれはまさにそのとおりで、木全体の一刻も休むことのない活動の精髄が春という時節に桜の花びらという一つの現象になるにすぎないのだった。たまたま志村さんのような人がそれを樹木全身の色として見せてくれると、はっと驚く。
このように見てくれば、これは言葉の世界での出来事と同じことではないかという気がする。
言葉の一語一語は桜の花びら一枚一枚だといっていい。一見したところぜんぜん別の色をしているが、しかし、本当は全身でその花びらの色を生み出している大きな幹、それを、その一語一語の花びらが背負っているのである。
そういうことを念頭におきながら、言葉というものを考える必要があるのではなかろうか。
そういう態度をもって言葉の中で生きていこうとするとき、一語一語のささやかな言葉の、ささやかさそのものの大きな意味が実感されてくるのではなかろうか。美しい言葉、正しい言葉というものもそのときはじめて私たちの身近なものになるのだろう。
(中学校「国語2」、光村図書出版)を「注.部分は著者の加筆」を除き引用。他にも高校国語の教科書に多数採用されている。また大学の受験用の参考書にも引用されている。)
改めて、冒頭の言葉の意味の深さは琴線に触れる。
Ⅱ【 大和ハウス工業は仙台市内の中心を3ヶ所、積極的に取得 】
大和ハウス工業及びそのグループは、目下仙台市中心部の土地(中古マンション付き)を積極的に取得し、一部は分譲マンションとして再販するとの方針。
【写真】現在解体中の、二日町「旧カルコスビル」
以上